仕事について訊かれたら?→ピンチじゃなくてチャンス

気になる人に「お仕事って、どんな事されてるんですか?」と訊かれたら? - シートン俗物記より。

例えば合コンに出て気になる女の子とサシの状態に持ち込んだとする。
(中略)
なんとなくイケそうな気がする(天津木村風に)

とワクワクしながらどのへんで彼女と店から出ようか計算を始めた頃、彼女が無邪気に尋ねてくる。

「で、シートンさんって、お仕事(学生の時は研究テーマ)されてるんですか?」

!………。

ここで固まってしまう。それだけは触れられたくなかった、と思いながら。
(中略)
みんなはどうしてます?自分の仕事・研究内容を好きな人に説明できますか?

id:MarriageTheoremさんって学科どこなんですか?」「数学科です」で妻をゲットした*1私が来ましたよ、っと。
・・・とその前に忘れないうちにツッコミを入れておきますと、「お仕事(学生の時は研究テーマ)」の前に「どんな」が抜けてますよ。今のままだと収入の心配をされているように聞こえてしまいます。

「できる」「できない」ではなく、「したい」ものなんじゃないんですか?

さて本題ですが、「説明できますか?」と問われれば、答えは当然「YES」です。
というより、「自分の大好きなモノの魅力を自分の大好きな人に語りたい、伝えたい」というのは世の男性、特に研究者なんかになっちゃうような男性に共通する性だと私は思っているのですが、そうではないんですか?
説明「できる」「できない」ではなく説明「したい」から、答えが「YES」であるべく常日頃から功夫を重ねる。そういうものだと思います。

試しに「非弾性中性子散乱法によるウラン化合物のエキゾチック超伝導同位体効果の観測」について(内容を全然知らないくせに)説明してみる

「えぇっとですね。リニアモーターカーって知ってます?」
リニアモーターカー?ゴメンなさい。知らないです…。」
「えっと、リニアモーターカーっていうとっても速い新型の電車があるんですよ。」
「電車のお仕事なんですか?」
「いや、違うんですけどね。」
「違うんですか。」
「ええ、その、新型の電車がですね、」
「はい」
「それを作るのに、超伝導、っていう…」
超伝導?」
「ええ、超伝導っていう不思議な性質が役立つと言われてて、その超伝導について研究してます。」
「難しい事されてるんですね。」
「そうですね。でも、ワクワクできて楽しいですよ。」


まぁ、所詮は妄想なので実際にこのように会話が進むとは限らないわけですが。
でも、「超伝導」を語る際に「リニアモーターカー」という(比較的)身近な題材をスルーしている時点で、物理現象という「現実」を扱っているという物理の数学に対する優位性を活かしきれていないのは確かで、そんな状態で

この点では数学をやってたヤツの方がまだナンチャッテ説明が可能じゃないだろうか。

と言われてもなぁ、と院生時代「無限コクセター群の同型性判定問題」なんぞを研究してた人間としては感じてしまいます。

「技術」ではなく「ロマン」を語るべし

大体、一般の人というのは、物理というのを“自分とまったく関係ない世界”と考えている。この点では数学をやってたヤツの方がまだナンチャッテ説明が可能じゃないだろうか。コンピューターで色々計算してるんですよ、とか。

なんて書かれてますが、そもそも数学やってる人間は一般の方に対して「コンピューターで色々計算してるんですよ」なんて説明はしません。たとえ本当にコンピューターで色々計算している研究だとしてもです。いや、してる人もいるのかもしれませんが、個人的にはそれは駄目な部類の数学者だと思います。


じゃあ一体数学者は何を説明するのか。私見ですが、それは「ロマン」です。
心に愛が無ければスーパーヒーローじゃないのと同様に、多くの数学者はロマンチストだという傾向があると思います。というか、ロマンの一つや二つ持ち合わせていなかったら、あんな抽象的でややこしい研究なんてとてもじゃないけど続けていられませんって。
数学の理論の中身は一般人にとってそれこそ「自分とまったく関係ない世界」でしかありませんが、数学者は人間ですから人間としての心の動きがあるわけで、「なぜ自分は数学をするのか」という心情の部分は時として他者の心にも響き得ることでしょう。
だから、良い数学者は数学を語るとき、理論の中身ではなく、自分が自身の数学に感じているロマンについて語るのです。もっとも、TPOというものがあるので、研究集会でロマンばかり語っていたらそれはそれで困り者ですけどね(笑)。

そもそも「『好きな』人に」と限定する必要もないと思う

図らずもid:Dr-Setonさんご自身が書かれている通り、自分の研究について他者に説明する必要というのは合コンの場面だけでなく、日頃の仕事でもよく生じるものですよね。ですので、説明する相手を「好きな」人に限定する必要もないのではないかと思います。


もっと言えば、id:Dr-Setonさんは物理の方のようですので、応用までのスパンが平均的に長いという点で数学と似た境遇にありますよね。
率直に言って、数学や物理のように研究の成果が短期的な影響として社会に還元されにくい分野の研究を続けていられるというのは、非常に恵まれた境遇であると思うのですよ。
であれば、自分が一体何を、なぜ、何のために研究しているのか人に説明する場面というのは、研究の成果や研究の重要性・必要性を具体的な成果物として見せるのが難しい我々のような種族に与えられた貴重なチャンスであると同時に、そういう恵まれた境遇にいられる我々が果たせるせめてもの責務でもあると考えます。


「キレイな夜空ね」に対して「新聞紙を折り畳むと月まで届く」ネタで即座に切り返せる某氏*2ほどの腕前とはいかなくても、機会さえあれば自分の研究する分野や学問の魅力やロマンを存分に語れるだけの精進を日頃から積んでおきたいものです。

おまけ:「理系っぽさ」について

「理系クン」は読んでないので中身の詳細は知りませんが、

なるべくそんな話題に触れられないように、理系っぽさは出さないように苦労しているわけだが。

だから、「理系クン」って本当の話なの?と疑り深くみてたりする。だって、こんなに理系っぽさを前面に出す それも女性の前で 男って珍しくないか?と感じてしまったから。

  • 「理系っぽさを出す」…そんな言葉は使う必要がねーんだ。
    なぜなら、オレや、オレたちの仲間は、
    その言葉を頭の中に思い浮かべた時には!
    実際に理系っぽさを出しちまって、もうすでに終わってるからだッ!
    だから使った事がねェーッ。
    (中略)
    『理系っぽさが出ちゃった』なら、使ってもいいッ!
  • 理系とは理系っぽい者ッ!!
    そして真の理系っぽさとは打算なき物っ!!
    相手の強さによって出したりひっこめたりするのは本当の理系っぽさじゃなぁいっ!!!


というわけで、貴方が真の理系であれば、貴方の努力もむなしくきっと貴方も「理系っぽさ」を発してしまっていると思いますよ。あたかも海外旅行から帰って来た人が自分の発する「外国の臭い」に気付かないように。

*1:まぁ、合コンの席でじゃありませんし、それだけが決め手だったわけではないとのことですが

*2:伝聞ですが、確か「やまとなでしこ」ってこんな感じの話でしたよね