「NISTEP:ポストドクター等の研究活動及び生活実態に関する分析」を読んで勝手に考察してみた

正確には、主に件の分析に関するこちらの記事を読んで、ですけれども。いや、一応原文の調査資料も眺めてはみたのですが、ちょっと付表含めて240ページ強、4.5MB以上の文章にきちんと目を通すのはしんどかったので。

「ポストドクター」の定義

まず気になったのが、原文から引用されていた以下の部分。

本調査におけるポストドクターとは以下の条件をすべて満たす方です。

  1. 博士号取得者、または、博士課程満期退学者
  2. 大学等の研究機関において、任期つきで研究業務に従事しているもの(謝金による支払いを受けているもの、人材遣会社から派遣されているもの、給与などの支給を受けずに研究活動を続けるものも含みます)
  3. 教授・准教授・講師・助教などのポストについていないもの
  4. 研究グループのリーダー・主任研究員などのポストについていないもの

自分は博士号持ちで某研究機関に勤める任期付き常勤(平)研究員なので条件1と2と4には当てはまるのですが、3の「・・・などのポストについていない」に自分が当てはまるのかどうか気になります。ここでいう「ポスト」とはどこまでの範囲を指すのでしょう?
私のような例以外にも、例えば大学講師は講師でも常勤講師と非常勤講師がいるわけですよね。常勤の平研究員や非常勤講師がこの調査でいうポストドクターに含まれているかいないかでこの調査結果のニュアンスが結構違ってくると思うのですが、実際はどうなのでしょうか。
(個人的には、常勤研究員を外して非常勤講師は含める方が、いわゆる「ポスドク」という言葉の響きには合致しているように感じます。)

任期

元記事でも引用されているNISTEPプレスリリース冒頭の要旨によるとポストドクターの任期は平均2.7年とのことですが、平均値よりも、元記事でも触れられている

任期1年の人が20%いる

という調査結果の方がより重要と思います。
一方、プレスリリース版の図1によると、任期6年以上の方が18人(1,035人中)もいるらしいです。私が今まで公募等で見た条件の中では任期5年が最長だったのですが、もっと長い任期の方もいるんですねぇ。
あと、任期が「わからない」が83人もいるってどーゆーこっちゃ。任期1年の人の多さよりもある意味こちらの方が問題な気が・・・

平均給与格差

  • ポストドクター等の平均月給は、税込みで約306,000 円であり、男性の平均は約314,000 円、女性は約282,000 円である。
  • 研究分野別に平均給与を見ると、最も高い工学系で約330,000 円、最も低い人社系で約213,000 円と10 万円以上の差が見られる。

平均給与の男女差については、id:min2-flyさんがブックマークコメントで指摘されている通り、女性が工学系に少なく人社系に多いという傾向から間接的に生じている相関なのではないかと私も思います。
あと、人社系の平均給与が低めなのは、

  • 研究発表に必要な「所属」を確保するために大学に籍だけ置いている「無給研究員」が多い
  • 理系に比べ、博士課程満期退学者の割合が高い

のが大きな要因なのではないかなぁと思います。統計を取ったわけではないので単なる想像なのですが、これらの方も上述の「ポストドクター」の定義にあてはまっているようなので。
このあたりは私も人社系の事情にそこまで詳しいわけではないので、詳しい方のご意見をお聞きしたいところです。

・・・と書いた後で気がついたのですが、下の方に

  • 人社系のポスドクには回答者のうち14%が雇用関係なしと回答している

って書いてありましたね。

その他

元記事で挙げられていたポイントからいくつか抜粋。

  • 職の正式名称は1035名の回答者から100種類をこえる名称の回答があった。日本では職名や雇用形態がまだ定まっていないことが分かる

これって、上で書いた「無給研究員」の方々の影響が大きいんじゃないでしょうか。この立場の方を何て呼ぶかは大学によってまちまちな気がしますし。

独立行政法人の給与の高さについては、大学のような教育機関ではないので積極的にポスドクの生活の面倒をみる動機がないというか、大学でいうところの助教、講師レベルや学振PDレベル以上の待遇でしか博士号持ちを雇わない(or雇えない)という事情が関係している気がします。
大学でも、助教、講師(常勤の)や学振PD以上に限定すれば多分もっと金額は上がるでしょう(が、それが「ポスドクの環境」を的確に言い表しているかどうかは別問題です)。

  • 国立大学に雇用されているポスドクの約5割が専用のパソコンを用意してもらっていない

・・・。国立大学でもこれですか・・・。論文書きとか発表準備とかどうしろと?「雇用」してるんだったら、せめてお下がりのミニノートでもいいから何とか工面してほしいなぁ・・・

  • 海外で博士号を取得したもの、あるいは海外でのポスドク経験があるものの方がそうでないものに比べて査読論文発表数が多い傾向がある

この傾向自体は調査結果から読み取れることとして、これが「海外での研究経験は研究能力や積極性を向上させる」のか、「元々能力や積極性を備えているから海外で研究できる」のか、どちらなのかは難しいところだと思います。
あと、論文発表件数にも分野格差があると思うので、その分野格差が間接的に影響しているのかどうか、なども。

おまけ

原文資料の表B-99に「研究者を目指した時期」という項目があるのですが、なぜか「目指していない」が4.0%もいるというのは不思議だなぁと初見では感じたのですが、よく考えたら以前共同研究した相手に、研究部門以外から研究部門に人事異動で移ってきたという方がおられました。ずいぶん無茶する研究所だなぁと感心したのですが、そういう方もいるわけですね。