6者6様の試練の刻 〜 全日本フィギュアスケート選手権、女子シングルフリー

これはどうしても書かずにはいられ(後略)


ありきたりな表現ではありますが、やはり全日本のリンクには何かが棲んでいるんだなぁと思わされる最終グループの戦いでした。

6分間練習

・・・やっちまいましたね。私はあれだけ派手な衝突は初めて見ました。
他にも、浅田選手がアクセルジャンプ(だったと思う)でちょっとひやっとする転び方をしたり、何となく不穏な雰囲気の感じられる6分間練習でした。

第1滑走、鈴木選手

SPを終えて3位まで約8点差と力の入りそうな位置につけていて、ただでさえ入り方の難しい第1滑走なのに、直前の6分間練習があんな雰囲気じゃあさぞや滑りにくかろうと心配する一方で、「それでも鈴木選手なら・・・鈴木選手なら何とかしてくれる・・・」との期待感(NHK杯で見せた彼女の勝負強さがあまりにも印象深かったので)も持ちつつ見ていましたが。


・・・いや、素晴らしい。この一言に尽きます。
実際にはジャンプの着地など細かいミスはあったものの、「あの雰囲気」の中で大きなミスも無く、魅せる演技をやり遂げることがどれだけ難しいことかはテレビの前の人間よりも現場の空気を感じていた観客の人たちの方がより実感できていたはずで、だからこそのスタンディングオベーションだったのだろうと思います。


この時点で鈴木選手が文句なしの首位。

第2滑走、村主選手

で、見ている側は「これで俄然面白くなったなぁ」などと気楽な立場でいられますが、直前にあれだけの演技とあれだけの観客の反応を見せられて、しかも軽症(のように見える)とはいえ6分間練習での激突が尾を引いていても何ら不思議の無い状況で演技に入らなければならないとは大変だろうなと心配する一方で、「それでも村主選手なら(中略)」との期待感も(中略)。


で、肝心の演技ですが、これがまた素晴らしかった。
やはり鈴木選手と同様ジャンプの着地などで少々苦戦したものの、6分間練習、鈴木選手と立て続けに積み重ねられたプレッシャーの漬物石を背負いきるどころか更に倍増させて次に回すかのような良い演技で、SPではほぼ同点だった鈴木選手を約5点も引き離してこの時点で首位に立ちました。
あの「強い」村主選手が帰って来た、と思わされる演技でした。

第3滑走、中野選手

・・・あぁ・・・ついに積み重ねられた漬物石の崩れる瞬間が・・・


ただでさえ「これでもか」とばかりに蓄積された緊迫感の中、全日本では初のSP首位という自前の巨大漬物石も背負った状態で、普段よりむしろ速かったのではないかと思えるスピンの回転に感じられた攻める姿勢と、不調とみるや3Aを封印して2Aに切り替えた自制心(真相はわかりませんが、私は元々3Aを入れる予定だったところを演技開始後に2Aに変更したのだろうと推測しています)に、中野選手の中野選手たる所以は確かに表れていました、が。
本人のコメント曰く「滑り始めたら足首が硬く、上手く氷に乗ることができなかった」とのこと。安定感には定評のある中野選手を以てしても克服できなかった、それだけのプレッシャーがあったのでしょう。
3度に亘るジャンプのミスを見逃してくれるほど今の全日本は甘くなく、この時点で僅差ながら3位に後退。「波乱」が起きました。

第4滑走、武田選手

蓄積された緊迫感は中野選手に注ぎ込まれる形で一端解消したものの、代わりに「波乱」の後特有の落ち着かない雰囲気が充満した会場。やりにくいことに変わりはない状況ですが、武田選手の場合は元々本人が怪我持ちという特殊事情がありました。周りの状況云々以前に自分の身体に逆境を抱えている状況で、だからこそ逆に周囲の雰囲気に飲まれることなく現状での精一杯の演技をできたのかもしれませんね。


一箇所、3Sを跳ぶような雰囲気で2Sを跳んだ場面がミスなのか予定通りなのか判断がつきませんでしたが(怪我のため控えめな構成にしていたという解説もありましたし)、他はノーミスの堂々たる演技で、その時点で4位とはいえ元々の力関係(と怪我)を考えれば大健闘と言える結果と思います。

第5滑走、安藤選手

6分間練習での激突のもう一人の被害者、安藤選手。
激突直前に危険を察知して衝撃吸収姿勢を取った村主選手とは違って、完全に不意を突かれたらしく右太腿で激突→右脚から転倒と真っ向からダメージを受けてしまった彼女は、演技への影響が避けられなかったようです。


正直、下手したらまた途中棄権になるんじゃないかというほど弱々しい雰囲気で演技を開始したのでどうなることかと思ったのですが、そのわりにはよく持ち堪えていたと思います。
滑り終えた時点で村主選手に次いで2位。3Lzでの転倒が無ければ村主選手を上回れたかもしれない一方、もう一つミスがあれば鈴木選手に抜かれたであろうほどの僅差でした。

最終滑走、浅田選手

それまでの選手の良い演技も悪い演技も、全て引き受けなくてはならない最終滑走者。
自身がシーズン当初から(GPファイナルやワールドを差し置いて)目標と公言していた「全日本三連覇」の舞台。
GPシリーズから続く戦いの疲労
SP2位発進という苦戦と、中野選手、安藤選手の低迷で一転して訪れた「余裕」の試合展開。


近頃「絶対王者」の風格を漂わせつつある、あの「完全アウェー」韓国でのGPファイナルで2度の3Aを決めてみせた彼女を以てしても、決して一筋縄ではいかないのが全日本の恐ろしさでしょうか。
「演技」としては圧巻でありながら、「競技」としては2度の3Aがいずれも回転不足と判定されるなど大苦戦を強いられ、終わってみればFS2位、村主選手に約4点差まで迫られる薄氷の三連覇となりました。

全体の感想

  • 演技の完成度という意味では2005全日本の再来とはならなかったものの、勝負の綾という意味では2005全日本とはまた違った見応えのある試合でした。
  • 中野選手がワールドどころか四大陸選手権の代表にもなれないって、日本層厚過ぎ・・・。上位陣に限定すれば下手なワールドよりレベル高いんじゃないでしょうか。
  • 鈴木選手は四大陸選手権の代表に見事返り咲き(でしたよね?)。ということは「ラ・カンパネラ」をもう一度見られるということですか。今回は用事で見逃したので楽しみです。・・・中継ありますよね・・・?
  • それにしても安藤選手はつくづく怪我にやられっぱなしですよね。折角復調してきたと思っていたのに、これでまた調子落とさないといいんですが。

おまけ、最終グループ前のひととき

いつの間にかコーチ業が板についてきた本田武史氏。中継中に姿が見えたとき、解説の人に「ジャンプの上手いコーチ」扱いされてましたね。よかったよかった。