パンが無ければ、パン工場を造ればいいじゃない with canon

大学院が育てるべきは研究者か、技術者か、その両方か - 発声練習経由でキャノン株式会社の新卒採用活動及び大学院教育に関する見解について:文部科学省を読んで*1

標題の件につきまして、弊社の新卒採用活動における人材要件及び大学院教育における人材育成に関する受入企業側としての見解を記載いたします。
(中略)
4.大学院教育に関する受入企業側としての見解

 現状では受入企業側の期待に対して不足する部分があると考えています。具体的には、多くの大学院生が企業への就職を選択する中で、多くのものづくり企業で期待されている「製品開発・設計といった企業活動における実務の担い手として必要なものづくりの基礎能力」が体系的・組織的に教育されている事例が十分では無いことが挙げられます。
 また、企業側が求める「高度な専門知識を有する人材」とは「博士号取得者」レベルとなります。加えて、入社の段階で高度な専門知識を必要とする研究職は、日々の企業活動を担う製品開発職に比べて需要は多くありません。したがって、大学院教育に関しては、専門知識を基にした研究職志向の学生だけではなく、学部・修士課程を通じて企業活動の実務に必要な「基礎能力」に長けた学生を育成する役割を要望したいと考えています。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/004/gijiroku/attach/1288747.htm

「「製品開発・設計といった企業活動における実務の担い手として必要なものづくりの基礎能力」が体系的・組織的に教育されている事例が十分では無い」という指摘については、「ものづくりの基礎能力」って何だよ、という誰もが思うツッコミを入れておいた上で、まぁそりゃそうだろうなぁと思います。だって、現在の大学院は基本的にそういう教育を行う場所になっていませんから。


キヤノンが求める人材の資質について、もしキヤノンだけが新入社員にそのような資質を求めているのだとしたら、キヤノンだけのためにオーダーメイドで人材輩出するべく組織のあり方を改めよ、と外部組織に要求するのは単なる我儘です。そんなの自分のところで教育すればいいじゃないか、で終わらせてよいと思います*2
もし、キヤノン以外の多くの企業においても新入社員に求められる資質が共通する(そして、それは現在の大学院の体制では教育するのが難しい)のだとしたら、現存する大学院に無茶な改革を要求するより、そういう企業向けの専門教育を行う学校を企業主導で一から作った方が効率的だし筋も通っていると思います。キヤノンをはじめとする大企業たちが共同で学校のようなものを作って、そこに入学したら企業で活躍するための高度な専門教育を受けられる上に卒業後にそれらの企業に入社できる(もしくはその可能性が高くなる)、となったら入学希望者もかなりの人数になることでしょう。
「大学院」という一個の機関に無理して複数の(ときには矛盾する)役割を負わせるより、それぞれの役割に特化した機関を作る方がより実践的な教育ができるでしょうし、学生の側も適切な進学先を選びやすいと思います。キヤノンのような大企業にこそ、そのような主導的な役割が期待されると思います。

*1:一応注意しておきますと、リンク先文書のタイトルが「キャノン株式会社の・・・」になっていたのでそのままコピペしました。正式名称は「キャノン」ではなく「キヤノン」みたいなんですが。

*2:勿論、社会人ドクターの受け入れなど、その過程で大学側が協力を求められた際にはできる限り協力することが望ましいでしょう。