「凡戦」の価値 ― 2010サッカーW杯 日本vsカメルーン

日本が他国開催のW杯で初勝利を挙げた昨日の対カメルーン戦。
私は昨日の試合を観ていて、将棋のプロ棋士の対局を思い起こさせるような、静かな展開の奥底に絶え間なく流れるジリジリとした痺れる雰囲気を感じました。結果以上に、「本番」の「真剣勝負」が堪能できて良かったと思っています。(「歴史的勝利」の後にもかかわらず、喜びというよりは試合の反省や次戦への展望が充満していた監督・選手のインタビューも、まるで将棋の感想戦のようでしたね。)


試合内容については、確かに両チームともに、華麗なドリブル突破や目の覚めるようなパスワーク、思わず声を上げるような決定的シュートシーンといった見た目に派手なプレイは多くなかったと思います。そのせいか(カメルーンが本調子ではなかったらしいことも理由の一つでしょうが)、昨日の試合を「凡戦」と評する人も少なくないようです。
まぁ、ブラジルやアルゼンチンの試合に比べれば見所の少ない試合だったかもしれません。


ただ、私は思います。もし、相手の力量が日本よりも明らかに上という状態であったならば、仮に日本が勝利を収めるにしても、決して「凡戦」にはならなかったことでしょう。
例えば、川口選手をはじめとする守備陣の驚異的な頑張りと、相手GK・DFの信じられないミスによる得点で日本が勝利し、「マイアミの奇跡」と称されるアトランタ五輪の対ブラジル戦。
例えば、久保選手の鮮烈な弾丸ゴールと、前年のバロンドール受賞選手・ネドベドを完璧に抑え込んだ稲本選手の驚異的なマッチアップ能力によって世界ランク1桁の相手を(親善試合とはいえ)破った2004年の対チェコ戦。
これらの試合のように、格上の相手に勝利するときというのは、大抵が後々まで印象に残るような名プレイや信じがたい幸運が飛び出した末のものでしょう。しかし、昨日の試合は決してそうではありませんでした。確かに本田選手の「日本人離れ」したゴール前の落ち着き、松井選手&大久保選手のドリブル、長谷部選手の頑強な守備、中澤選手の目ざといドリブルカットなど好プレイはいくつも見られましたし、ゴールポストに助けられた終盤のミドルシュートなど幸運があったのも事実ですが、それらは「普通の試合内容」の振幅を逸脱するほど極端なものではなかったと思います。


私が昨日の試合を、両チームがどこのチームなのか全く知らずに観戦したとしたら、恐らく「普通のチーム同士が(W杯における)普通の試合をしていた」という印象を受けたことでしょう。試合自体はあまり印象に残らなかったかもしれません。
昨日の日本代表は、(多少不調だったにせよ)カメルーンクラスの国に対して、必死の形相で強者に挑みかかる弱小チームとしてではなく、「凡戦」を繰り広げられる程度に力の拮抗した対戦相手として振舞っていました。W杯という舞台で、もう何度も何度もW杯に出場している「普通の国」のような顔をして力強く戦う日本代表の姿が見られた。そのことだけで私にとっては既に大いなる喜びですし、ドーハの悲劇ジョホールバルの歓喜の頃を思い起こすと隔世の感すら覚えます。


W杯の「普通の出場国」になった昨日の日本代表に乾杯!