数学科の学生や大学院生はみんなこの論説を一読するといいと思う

元ネタはこちらの記事にある、「論説 数学のすすめ 科学と技術の基盤守ろう」という上毛新聞の2008年3月30日付の論説の紹介。日本における数学研究の「危機的な状況」についての現状と、主に産業界との連携という観点からの改善策についての提言、といった内容なのですが、その論説の結びが以下。

和算は、刺激となり活用の場ともなる自然科学が日本になかったため、十分に発達しなかった。数学研究が同じ道をたどらないよう、しっかり支えたい。

「しっかり支えたい」。なんとも目頭が熱くなる言葉じゃないですか。
数学者の一人として、この論説の筆者ならびに掲載紙である上毛新聞の方々にお礼申し上げます。


元ネタの紹介記事には、こんなことも書かれてありました。

その点からすると、どうしても数学科の人間は「純粋数学の方が高尚だ」と感じてしまいがちだが、その考え自体を改めていくべきなのだと思う。

自分も以前は多少そういうことを考えていたような気がしなくもないので、その理由を分析してみますと、当時の自分が数学以外のことを禄に知らなかったという点以外に、あまりにも周囲*1から「数学は役に立たない」と言われ続けてきたことに対する精神的な防衛手段だったのかな、と思います。「役に立つかどうか」以外に、自分が数学を続けていく「尤もらしい理由」を必要としていた、というか。
でも、今の職場*2に行って本当に実感したことですが、「数学は役に立たない」なんて嘘っぱちなんですよね。
けれども、それが嘘っぱちであることが、よりによって当の数学者たち(特に学部生や大学院生)になかなか伝わらない。
2年ちょっと前まで数学科の大学院生だった私の実感として、そういう傾向は確かに存在すると強く感じます。


勿論、数学の全ての分野がこういう意味で直ちに「役に立つ」わけではないですし、数学者の中にもある程度の割合では「純粋数学の方が高尚だ」と心底信じて純粋数学の研究に邁進するような人がいてほしいとも思うのですが、そうではなくて「数学は役に立たない」というコンプレックスの裏返しとして純粋数学を特別視している(特に、これから進路を決定する若手の)数学者(やその卵)の方々におかれましては、是非一度この論説を読まれることをお奨めします。
読まれた上でどういう行動を取るかはその方次第ですが、触れてみて損はしない情報だと思いますよ。

*1:この「周囲」に数学者の先達も含まれるあたりが何とも

*2:宣伝も兼ねて遠回しな説明をすると、今月号の「数学セミナー」でエッセイの連載が始まった某H氏と同じ職場