『この定理が美しい』(数学書房)

この定理が美しい

この定理が美しい

帯の言葉は「数学者の眼に映る数学の美しさとは」。若手から名誉教授まで総勢20人の数学者が、数学のみならず物理学や情報科学も含めた幅広い分野における「自分にとっての美しい定理」について語った本です。
私、id:MarriageTheoremも僭越ながら拙文を寄せさせていただきました。これが私にとって数学者として初の一般書籍向け執筆活動ですので、今のところ「id:MarriageTheoremの文章が読めるのは『この定理が美しい』だけ!」です。


出版社のサイトでも紹介されていますが、各項のタイトルは以下の通りです。

  • はじめてのwell-definedness
  • 運命のつながり
  • 有限体上の楕円曲線の有理点
  • 対称性の美
  • 色褪せない定理たち
  • 未開の大地への招待
  • 閉曲面の分類とオイラー標数
  • 2500年の歴史
  • 複素解析の入り口
  • おもしろい有理式
  • 新しいものを創造する力
  • 複素数と繰り返しが織りなす世界
  • 思いがけぬ活用法
  • 力学系の源泉
  • 数学の世界の紙工作
  • λ計算の美しさ
  • 数学の野原を飛び出して
  • ガウスとフロベニウス
  • ランダムネスに潜む普遍性
  • みなさんなら何を選ぶ?

内容ですが、一般向け書籍ということでピタゴラスの定理素因数分解幾何学模様や旧10マルク紙幣といった比較的馴染み深い題材が見受けられる一方、かなり高度な数学に関する話題も含まれていますので、一般読者の方にとっては難しく感じられる箇所もあるかと思いますが、実は私もそうでしたので気になさらなくて大丈夫です。そんなときは、数学に対する筆者の溢れんばかりの愛情を微笑ましく感じつつ、わからない箇所をこっそり読み飛ばす(そして、もし気が向いたらまた戻ってくる)のが吉です。
しかしそうは言っても一般向け書籍ですので、数式がなくとも理解できて楽しめるようにと、数式以外のエピソードや哲学についての記述もちゃんと用意されています。私が通し読みして特に印象に残った箇所を以下にご紹介します(長くなりすぎるので一部略させていただきました)。

しかし短い期間であっても数学を自分の問題として生きた人、数学の美に導かれて道を辿った経験のある人にはわかるだろう。その道を辿っているときは、他のことはすべて消え失せ、真理の女神の前にひたすら謙虚になり、深い充実感が得られることを。ガロワの人生に数学があったことは喜ばしいことだ。そしてもちろん数学にとってガロワが存在したことは幸福なことである。

ピタゴラスの定理については、大学に入ってからも忘れられない出来事があった。
(中略)
ピタゴラスの定理というのは、直交条件と同値な条件を長さを使って述べているでしょ。これは角度と長さを結びつけた人類最初の重要な定理なんです」
正直これを聞いた時、そのスケールの大きな表現に驚いた。
(中略)
ピタゴラスの定理を計量のための道具と勝手に位置づけ、その一般化というと余弦定理くらいしか知らない大学生1年生にとっては、この一言は今日まで忘れられないものとなるほど、心に深く刻まれた。

なお、最後の項目「みなさんなら何を選ぶ?」では、私のような数学オタクではないフツーの大学生が選んだ「美しい定理」が紹介されています。定理の顔触れやそれを選んだ理由など、数学者によるものとはまた違った趣があり私も読んでいて面白かったです。


ちなみに、私が今回の原稿で目指したのは「数学が苦手な方にも楽しんでもらえる文章」です。流石に「美しい定理」のステートメントやその応用について数式抜きで書くのは厳しいですが、せめてそれ以外の箇所は楽しんでもらえるようにしたいと思い、日頃ブログで培った文章力(←嘘です)を駆使して原稿を書き上げた結果、どうやら「ファイナルファンタジーみたい」(妻の友人談)と感じられるような文章が何故か出来上がってしまったようです。
数学書でFFってどういうことよ」と怪しんでおいでの方は、是非一度本書をお手にとって謎の正体をお確かめ下さい・・・と言いたいところなのですが、自宅近くの書店にもヨドバシAkiba内のそこそこ大きめの書店にも本書が並んでいなかったんですよね。この様子ですと店頭で本書を見つけるのはかなり難しいのかもしれません。さて、どうしたものか・・・