『この定理が美しい』(数学書房)
- 作者: 数学書房編集部
- 出版社/メーカー: 数学書房
- 発売日: 2009/06
- メディア: 単行本
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私、id:MarriageTheoremも僭越ながら拙文を寄せさせていただきました。これが私にとって数学者として初の一般書籍向け執筆活動ですので、今のところ「id:MarriageTheoremの文章が読めるのは『この定理が美しい』だけ!」です。
出版社のサイトでも紹介されていますが、各項のタイトルは以下の通りです。
内容ですが、一般向け書籍ということでピタゴラスの定理や素因数分解や幾何学模様や旧10マルク紙幣といった比較的馴染み深い題材が見受けられる一方、かなり高度な数学に関する話題も含まれていますので、一般読者の方にとっては難しく感じられる箇所もあるかと思いますが、実は私もそうでしたので気になさらなくて大丈夫です。そんなときは、数学に対する筆者の溢れんばかりの愛情を微笑ましく感じつつ、わからない箇所をこっそり読み飛ばす(そして、もし気が向いたらまた戻ってくる)のが吉です。
しかしそうは言っても一般向け書籍ですので、数式がなくとも理解できて楽しめるようにと、数式以外のエピソードや哲学についての記述もちゃんと用意されています。私が通し読みして特に印象に残った箇所を以下にご紹介します(長くなりすぎるので一部略させていただきました)。
しかし短い期間であっても数学を自分の問題として生きた人、数学の美に導かれて道を辿った経験のある人にはわかるだろう。その道を辿っているときは、他のことはすべて消え失せ、真理の女神の前にひたすら謙虚になり、深い充実感が得られることを。ガロワの人生に数学があったことは喜ばしいことだ。そしてもちろん数学にとってガロワが存在したことは幸福なことである。
ピタゴラスの定理については、大学に入ってからも忘れられない出来事があった。
(中略)
「ピタゴラスの定理というのは、直交条件と同値な条件を長さを使って述べているでしょ。これは角度と長さを結びつけた人類最初の重要な定理なんです」
正直これを聞いた時、そのスケールの大きな表現に驚いた。
(中略)
ピタゴラスの定理を計量のための道具と勝手に位置づけ、その一般化というと余弦定理くらいしか知らない大学生1年生にとっては、この一言は今日まで忘れられないものとなるほど、心に深く刻まれた。
なお、最後の項目「みなさんなら何を選ぶ?」では、私のような数学オタクではないフツーの大学生が選んだ「美しい定理」が紹介されています。定理の顔触れやそれを選んだ理由など、数学者によるものとはまた違った趣があり私も読んでいて面白かったです。
ちなみに、私が今回の原稿で目指したのは「数学が苦手な方にも楽しんでもらえる文章」です。流石に「美しい定理」のステートメントやその応用について数式抜きで書くのは厳しいですが、せめてそれ以外の箇所は楽しんでもらえるようにしたいと思い、日頃ブログで培った文章力(←嘘です)を駆使して原稿を書き上げた結果、どうやら「ファイナルファンタジーみたい」(妻の友人談)と感じられるような文章が何故か出来上がってしまったようです。
「数学書でFFってどういうことよ」と怪しんでおいでの方は、是非一度本書をお手にとって謎の正体をお確かめ下さい・・・と言いたいところなのですが、自宅近くの書店にもヨドバシAkiba内のそこそこ大きめの書店にも本書が並んでいなかったんですよね。この様子ですと店頭で本書を見つけるのはかなり難しいのかもしれません。さて、どうしたものか・・・