で、何故作者だと違法で、セキュリティ研究者だと合法なんですか?

先日の私の記事(「続: Winny研究者がなぜウィルスによる情報漏洩の責任を問われうるか」へのお返事 - Marriage Theorem 新居)について、元記事の方が追記されているので反応。

追記: 新しく飛んできたTBについて。作者が修正版を公開することには期待可能性が無いとわたしが書いているのは、純粋に当事者として法廷で係争中だからであって、これはセキュリティ技術者には当てはまらない。修正版の作成・公開は緊急避難であると信じて実行した場合、それについて相当の理由がある場合は誤想防衛、あるいは故意に欠ける、あるいは違法性の意識の可能性に欠けるとして犯罪にならない可能性は高い(相当の理由がない場合はそうは言えないだろう)。したがって(2.)にかかる解釈は誤りである。なお、この観点で情報漏洩が重大なものであるかどうかという点について最初の雑考に言及もしてある。

続: Winny研究者がなぜウィルスによる情報漏洩の責任を問われうるか - ものがたり

最初に細事ですが、上の「(2.)にかかる解釈」の部分は(3.)のことですよね。


で、結局よくわからないのですが、以下の部分について、

修正版の作成・公開は緊急避難であると信じて実行した場合、それについて相当の理由がある場合は誤想防衛、あるいは故意に欠ける、あるいは違法性の意識の可能性に欠けるとして犯罪にならない可能性は高い(相当の理由がない場合はそうは言えないだろう)。

「緊急避難」の意味がよくわかりませんが、文脈から判断して「(法的・社会的な)利益が不利益を(大きく)上回る行為」のことだと解釈しますと、

  1. もし係争中という状況にもかかわらず作者が今あえて修正版を作成・公開したとしたら、それこそ「緊急避難であると信じて」実行したと考えるのが自然です。でも、作者だとたとえ緊急避難と信じての行為でも著作権侵害幇助と判断されるんですよね。
    なのに、セキュリティ研究者が「緊急避難であると信じて」修正版を作成・公開すると犯罪にならない可能性が高い、という根拠はどこにあるんですか?
    (セキュリティ研究者だって、Winny問題に真面目に取り組んでいる方であれば件の判決の内容ぐらいは当然把握しておられるでしょうし、そう判断するのが自然です。なので「違法性の意識の可能性に欠ける」という逃げ道を当てにするのは当人にとって危険性が高すぎます。)
  2. セキュリティ研究者によるWinny修正版の作成・公開が、「少なくともある人物が実行した場合には違法と判断される類の行為である」と周知されているにもかかわらず「緊急避難であると信じて」の行為と認められ得る、と仮定しましょう。
    一方、そのセキュリティ研究者が現在までに行ってきたWinny問題に関する研究活動の形式・手法は、これまでに違法と判断された実績が無く、またセキュリティ研究の分野で従来一般的と認められてきたものです。だとしたら、その研究活動だって「緊急避難であると信じて」の行為と認められるんじゃないんですか?なぜそちらについては端から「セキュリティホールを悪用した情報漏洩に対する、積極的な幇助行為」扱いなんですか?
    短くまとめますと、従来違法と判断された実績の無い行為については違法行為扱いしておきながら、一方で既に違法と判断された実績のある行為を「できるはず」と主張されるのはなぜですか?
  3. 違法性の意識の可能性に欠けるとして犯罪にならない可能性」の部分について、http://jillesa.net/blog/2008/12/fault-of-illegalizing-1-1/経由で「法の不知は宥恕せず」という言葉を知ったのですが、

    今の判例では、違法性を意識していなくとも、故意は認められます。現行法には違反しているけれど、それは間違いで、自分の考えるあるべき法には違反していないとして、犯罪をおこなう者は、確信犯といいますが、これも当然処罰されます。

    法の不知は宥恕せず - けったいな刑法学者の戯れ言

    とのことですが、だとするとそもそも「違法性の意識の可能性」の有無は違法かどうかの判断には関係しないのでは?



いくら「緊急避難と信じていれば犯罪にならない可能性は高い」と言われても、実際に「緊急避難と信じていた」かどうかを判断するのも「緊急避難と信じていたから無罪」とするかどうかを判断するのもセキュリティ研究者本人ではなく、裁判所なりそれに類する他者でしょう?
だとしたら、そんな他者が最終決定権を持つ判断に関する不確かな推測より、「(別の人物の場合ではあるけれども)実際に違法行為と裁判所が判断した」という確固たる事実の方が圧倒的に勝るのは、セキュリティ研究者だって人間なんですから当然のことです。
そんな不利で危険な状況を物ともしない自己犠牲精神をセキュリティ研究者にだけ要求し、あまつさえそれを行っていないことを理由に「作為義務」が云々だの「セキュリティホールを悪用した情報漏洩に対する、積極的な幇助行為」だの、無茶苦茶言わないで下さいよ。そんなことを言うぐらいなら、例えば「(作者以外による)改良版Winnyの作成・公開は緊急避難と認める」という裁判所の見解を引き出すとか、法律の専門家として法的な立場から尽力して下さいよ。
「法律的に可能な状態にさえなれば、色々できることはあるかもね」ということは私だって最初から書いてるんですから*1


最後に、「あと最後にいい物を貼っておきます。」と言われたので貼ってあったものを有難く受け取ってきたんですが、一体これ何に使うんですか?

*1:とはいえ、色々な方のブックマークコメントを拝見すると、法的な解釈がそうなったとしてもできることがあるかどうかわかりませんが・・・