「当選確実」と"projected winner"

以前から取り上げている話題ですが、参議院議員選挙の前日ということで改めて書いておきます。


日本の選挙速報で用いられている「当選確実」という用語は、(正確な定義は各報道機関に依ると思われますが)概ね、出口調査の結果から統計的な推定を用いて「高確率で当選する」と判断された候補者を指します。
つまり、仮に推定結果に科学的な裏付けがあったとしても、その候補者が当選するというのはあくまで「予測」であり、客観的確定的な「事実」ではありません。実際、一度はある候補者の「当選確実」が報じられたものの、最終的にはその候補者が落選したという例もあります。
にもかかわらず、多くの報道機関が「確実」という、単なる「推測」ではなく確定的な「事実」であるかのように誤解させる表現*1を用いています。私見では、「当選確実」の代わりに例えば「当選見込」といった表現に改めるだけで、ずっと実情を反映した報道へと改善されると思います。報道機関というのは言葉のプロの集まりだと私は理解しているのですが、そうであるならば当該機関の皆さまにはより繊細な言葉遣いをしていただきたいものです。


ちなみに、いくつかのウェブページによると、「当選確実」に相当する英語の表現として"projected winner"という用語があるそうです。

projected winnerといえば選挙では「当選確実な候補」。

「ほぼ毎日 英語学習日記 〜 英語holic 〜」(http://kyonenglish.blog98.fc2.com/blog-entry-882.html)

当確者は、projected(推定された)を使ってprojected winnerというのが普通だ。

「【早稲田の英語】(22)選挙 浮動票は「swing vote」」 ― MSN産経ニュース (http://sankei.jp.msn.com/life/education/090828/edc0908280838001-n1.htm)

後者の引用部にもある通り、"projected"という語には「推定された」という意味があるようで、"projected winner"ならば、当選すると「推定された」候補者、というニュアンスがちゃんと含まれているようですね。


他国でより適切な用語が用いられているのに、日本では不可能という理由はないでしょう。こういった細かい点に気を配っていくことが、「事実」と「予測」を区別するという大切な習慣の定着に繋がっていくものと考えます。
なお、前回の衆議院議員選挙の際に総務省が各報道機関に対し、「当選確実の放送等を慎重かつ正確に行」うことを含む要請を行った(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02ryutsu09_000037.html)という話もあります。意義深い取り組みだと感じますが、できればこういった不適切で紛らわしい用語についても指摘してもらえないかなぁと思います。

*1:念のため、手元にあった辞書『大辞泉』(小学館、1998年版)で「確実」の項を引いてみたところ、「たしかで、まちがいのないこと。また、そのさま。」と記述されていました。