『フェルマーの最終定理 - 萌えて愉しむ数学最大の難問 -』(PHP研究所)

あ・・・ありのまま(中略)「『ワールド・フィギュアスケート40』を探しに本屋へ行ったと思ったら気が付いたらこんなものを買っていた」な・・・何を言っているのかわか(後略)

フェルマーの最終定理

フェルマーの最終定理

というわけで、折角買って読んだので簡単な感想など。

注意事項

本書には14歳少女の「せくしーぽーず」の絵が含まれていますので、そういうのに厳しい国へ本書を持っていく際は充分に注意して下さい。

あと、集合論関係者諸氏におかれましては、本書69ページとその周辺における「ゲーデル不完全性定理」の扱いに激怒されませんようお願いします。

前置き

id:MarriageTheoremは基本的にツッコミ体質なので「気になるところ」の記述が多くなるかと思いますが、「フェルマーの最終定理を萌え絵で擬人化(しかも僕っ娘)する」というクレイジーな着想(←褒め言葉)という一点だけで個人的には充分前向きな印象を持っていますので誤解されませんよう。

内容

文字と数式によるフェルマー予想の内容および解決にいたるまでの歴史の解説文と、主人公・積野うさぎ(表紙左側)がフェル子(表紙右側)と出会うところから始まる漫画の両方が、交互に進められていく変わった本。

良かったところ

フェルマー予想に関する数学的記述については、しっかりとわかりやすく解説されているのではないかと思います。安心して読めました(ただし、そこまで執念深く読んだわけではありませんので、もし仮に本文中に何らかの数学的間違いが含まれていたとしても私は責任を負いません)。実際、著者の中村亨氏は代数幾何学を専攻して修士を取られた方とのことなので、普通に考えれば私よりもこのトピックに明るい方のはずなので当然といえば当然なのですが。
ちなみに本文中で、フェルマー予想の研究に携わった数学者AdlemanがRSA暗号の考案に関わったことや、楕円曲線が暗号に応用されることなど暗号との関連が少々述べられていますが、同じく本文中で紹介されているSophie Germain素数も近年暗号分野の研究に応用されています*1

一方の漫画については、事前に想像していたよりずっと「漫画として」面白く読めました。ただし織り交ぜられているオタクネタは(多分、一般人から見ると)濃ゆいものが多いので、そういう方面に耐性の無い方・・・はそもそもこんな本を手に取らないですね、ええ。でも、もし本書をクリスマスプレゼントに贈るつもりの方がおられましたらお相手を充分吟味して下さいませ。もう手遅れかと思いますが。

気になるところ

最も気になったところとしては、本文の内容と漫画の内容との関連がよくわかりませんでした。それぞれ独立に面白い内容だとは思うのですが、両者の共存によって相乗効果が生まれているように感じられなかったので残念に思います。(ただし、それは私の読解力の低さ故かもしれませんので、両者にはこんな関連がある、といったご指摘は歓迎です。)

あと、・・・漫画パートの作者の方ごめんなさい、フェル子で萌えろと言われてもid:MarriageTheoremにはどうしても無理でした。「和服」「僕っ娘」「不思議系」「絵が下手」と、それっぽい要素は満載なんですけどねぇ。むしろ、フェル子やうさぎよりうさぎのとーちゃんやうさぎのかーちゃんの方が(後略)。

最後に漫画パートにおける数学的題材の扱いについて。冒頭の「注意事項」で触れました不完全性定理の件は脇に置くとして、それ以外に一つだけ引っかかった箇所があります。微妙にネタバレになるので「続きを読む」記法にて。


「続きを読む」記法がうまく作動しない場合があるようなので改行を入れています)
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フェルマーの最終定理の主張が「n>2のとき(中略)を満たす正整数解は存在しない」であることを受けて、漫画ではフェル子が「本来2次元以下でないと成立できない存在」であると設定しています。「n>2のとき(中略)は存在しない」という主張の内容から着想した設定と思われますが、「存在しない」という部分も含めて初めて「フェルマーの最終定理」となるわけですので、本来2次元以下でないと「成立できない」存在、という表現には少々首を傾げてしまいます。
誤解のないよう念押ししておきますと、漫画自体は面白く読めましたし、上記の設定がクライマックス部分で果たす役割の大きさも鑑みて、フェル子というキャラクターをそのように設定すること自体は「漫画」として見ればむしろ成功であると思います。ただし、単なる「漫画」ではなく「数学漫画」として見たときには果たしてどうだろうか、ということです。このあたりが、上述した「相乗効果」に対する疑問の一つの理由でもあります。

*1:例えば、2007年に提案された証明可能安全性を持つ擬似乱数生成器のある構成法において、Sophie Germain素数が用いられています