対角線論法と選択公理
某所で「対角線論法(のうち、実数全体が可算でないことを示すアレ)に選択公理は必要か?」という話題を見かけた。
この問い自体については、新しい十進小数を作るために各桁を既存の小数と異なるように選ぶ際、選び方を他の桁と無関係に具体的に指定できる(例えば、元々その桁が1だったら2、それ以外なら1を選ぶ)ので選択公理は不要ということでよいとして、そこからの連想で以下の問いを考えてみた。
問:「各正整数nごとに要素数2以上の集合X_nが与えられているとき、それらの直積集合と正整数全体との間に全単射は存在しない」ことは、(可算)選択公理を使えば対角線論法で証明できるけれども、では選択公理抜きのZF集合論ではどうだろうか?
なお、私自身も答えはわからないので、わかった方はご教示くださると嬉しいです。
(追記あり)
続きを読む「偶数と偶数の和は偶数であることの説明」について
偶数と偶数の和は偶数であることの説明 - 紙屋研究所という記事を読んで。
ぼくが参加しているのは、基本は小中学校生の「宿題をやる会」みたいな感じで、そこでごく数名が講師にわからない点を聞いているみたいな風景。
(引用時略)
その子は次の問題を「わからない」と言ってきた。
(問題)
正さんは「偶数と偶数の和は偶数である」ことを説明しようとして、次のように説明した。
- mは整数である。
- ゆえに2mは偶数である。
- 2m+2m=4m=2(2m)
- よって偶数と偶数の和は偶数である。
この説明に対して、進さんは「偶数と偶数の和は偶数である」として「2m+2mを用いるのは間違いだ」とした。進さんの説明が正しいのか、間違っているのかを説明しなさい。
出題で指摘されている点も確かに間違いなのだが、そもそも「mは整数である」という書き出しからして問題を孕んでいる。こういう出題にすると、「指摘されている箇所以外は問題ないんだ」と生徒に刷り込ませる弊害が起きかねないのでもっと慎重な出題にしてほしい。
「mは整数である」という書き出しの何が悪いのかというと、ここで唐突に出現したmと、目標の命題に書かれている「偶数」がどう関係しているのか不明なことである。私が件の命題の証明を(生徒向けに普段より丁寧に)書くとしたら例えば以下のようになるだろう。
- 偶数とは2で割り切れる整数のことである。
- そこで、命題中の一つめの偶数を2で割った結果も整数である。これを仮にmとする。このとき、一つめの偶数は2mと表せる。
- 同様に、命題中の二つめの偶数を2で割った結果も整数である。これを仮にnとする。このとき、二つめの偶数は2nと表せる。
- すると、一つめの偶数と二つめの偶数の和は2m + 2n = 2(m + n)と表せる。mとnは整数なのでm + nも整数であり、従って一つめの偶数と二つめの偶数の和は確かに2で割り切れる、つまり偶数である。
これを踏まえて、件の命題の「誤った証明」を書くとしたら例えば以下のようになるだろうか。
(誤った証明)
- 偶数とは2で割り切れる整数のことである。
- そこで、偶数を2で割った結果は整数なので、これを仮にmとすると、もとの偶数は2mと表せる。
- すると、偶数と偶数の和は2m + 2m = 4m = 2(2m)と表せる。mは整数なので2mも整数であり、従って偶数と偶数の和は確かに2で割り切れる、つまり偶数である。
(誤った証明終)
…とここまで書いて気がついたのだが、そもそも件の出題の意図が「「偶数と偶数の和は偶数である」を「二つの数があり、そのどちらも偶数であるならば、それらの和も偶数である」のように行間を読んで解釈できるようになりなさい」なのか「異なる(より正確には、互いに独立に与えられている)数を表すのに同じ文字を使ってはいけません」なのかも自明でないような気がしてきた。まさか、出題者自身が両者を混同していることはないと思うのだが、真の意図はどちらなのだろう?
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よろしければ研究のお供に1着どうぞ。何かヤバいアイデアが降りてくるかもしれませんよ?
「ジョジョの奇妙なBAR ヘブンズ・ドアー」潜入レポ
もう5ヶ月近くも前の話になりますが、昨年11月22日に、神戸三宮にある「ジョジョの奇妙なBAR ヘブンズ・ドアー」(「食べログ」のページへのリンク)へ潜入してきました。
偶然にもちょうど三宮近辺で開催された某国際研究集会のスタッフを務めていたため、三宮へ出張する予定があったのです。神がいるとして運命を操作しているとしたら!今回ほどよく計算された出張はあるまいッ!
潜入は仕事後の夜の予定でしたが、暗くなってから迷子になったりまたは定休日だったりするとイジケーな気分になるので、まだ明るい昼間のうちに偵察に行ってきました。下の写真は店の入り口の様子。
ちなみに(下の写真では小さすぎてよく見えませんが)店に向かう路地の途中に「リトル・フィート」という名前の別の店を見つけて『同じタイプのスタンド』という言葉が頭をよぎったのは秘密です。
さて、昼間の仕事を済ませ、吸血鬼の時間夜になってから改めて来店。色々あって学生さんたちと既に飲み食いした後だったので、大体9時半頃でしたか。下の写真は入り口の看板の夜バージョン。
看板脇の階段を下りて店の入口へ。その階段の壁や入口付近の黒板にも色々と面白いネタがあったので撮影してみたのですが、暗くて全然写りませんでした。普段写真を撮る習慣がないため当日はまともなカメラを持参しておらず、携帯電話のカメラ機能での撮影だった故の限界です。
「潜入レポにはまともなカメラを持って行け」ンッン〜 名言だなこれは… orz
ついに潜入を果たした店内では、壁にジョジョの単行本がずらっと並べてある他、原作にちなんだ様々な装飾品が!
ああ!う…美しすぎます!と感動を覚えつつ、店長さんに案内されたテーブル席の脇の壁にはこんなものが(下写真)。これはヤバい。「『ジョジョネタを堪能する』『料理も愉しむ』「両方」やらなくっちゃあならないってのが『ジョジョBARの客』の辛いところだな 覚悟はいいか?」と問いかけられているかのような緊迫感です。
着席すると、その日の体調や持病に合わせて店長さんがコースを考えてくれる…ということはなく、普通に自分で料理や飲み物を注文することに。
まぁ、ジョジョBARなので普通じゃないメニューばかりなのですが。例えば下の写真に写っている(店内が暗かったため写りが悪いですが、見るんじゃあなくて観ることで解決して下さい)カクテルのページにはジョジョネタにちなんだ名前のカクテルがずらりと並んでいました。お酒の飲めない私から見ても美味しそうだなぁと感じる名前もありましたが、中にはそうではないものも…。「緑色の赤ちゃん」とか一体何を出されることやら(笑)。
なお、メニューの上に乗っている円形の物体はダービー(兄)のコインです。小道具もばっちり。
下の写真はスティッキー・フィンガーズとトト神(さっきのメニュー表の表紙)のツーショット。
店長さんお薦めの人気メニュー「肉の芽」。ケチャップで描かれた無駄無駄ラッシュも大迫力。美味でした。
次の写真(二枚組)はもう一つの人気メニュー、Luck&PLuckの「オムライス」。来店前に食事をしていたため少し躊躇しましたが、「『注文した』なら使っていい!」という内なる声に従い注文。美味しかったため結果的に大正解でした。
他にもジョジョ心がくすぐられるメニューが多かったものの、いい加減満腹になってきたので料理の代わりに店内の雰囲気を楽しむことに。
ちなみに店長さんは、私が勝手に想像していたようなシュトロハイムや露伴先生のような濃いキャラではなく、もっと人当たりの良いナイスガイでした。ただ、一人で店内を切り盛りしているため、『ジョジョネタで客と語らう』『料理を手早く提供する』を「両方」やらなくっちゃあならなくてとても忙しそうでした。
最後はデザートの時間。最初に注文しようとした「プリン」は億安の来襲(←店長談)により品切れだったので、代替案として「ヴァニラ・アイス」を注文。陽光の届かない地下だったので安心して注文できますね。
なお、下の写真の奥にうっすらと見えるのはカクテル「ピンクダークの少年」。私はアルコールを飲めないのですが、店長さんに相談したらノンアルコール版のカクテルを作って下さいました。…ンまぁ〜〜い!(ちなみに、カクテル全種類制覇した暁には、あの名台詞を名に冠した特注日本酒をプレゼント!とのことです。「あの名台詞」が何なのかはパッショーネのボスの素性なみの機密事項なので、知りたい方はお店に行ってみて下さい。)
そんなこんなで時間は過ぎ、お会計を済ませていざ帰還…の前に、折角なのでジョジョネタで店長さんに別れの挨拶をすることに。
事前に想定していた「アリアリアリ(後略)」は店長さんの決め台詞のようなので、急遽別案を考えた結果、ジョセフが風になったワムウへ示した敬礼の姿で、この素晴らしいお店を守っている店長さんへの敬意を表してみました。…が、私の凄み不足からか上手く伝わらなかったようで残念。
そして、店長さんによる「アリアリアリ(後略)」の声に送られつつ店外へ。
短い時間でしたが、震えるぞハート!燃え尽きるほどヒート!な良い時間を過ごすことができました。
…ふぅ、何だかんだで5ヶ月近くも間が空いてしまいました。ようやく書くことができたので、10時間熟睡した後のようなすっきりとした気分です。
二項演算を持つ集合が群になる条件
某所で話題になっていた件についての備忘録です。
命題
空でない集合Gに結合法則を満たす二項演算Bが与えられている(以下、B(x,y)をxyと略記)とき、以下の2条件
(1)Gの任意の元 x について、写像 Lx:G → G, Lx(y)=xy は全単射
(2)Gの任意の元 x について、写像 Rx:G → G, Rx(y)=yx は全単射
を満たすならば、Gはこの二項演算に関して群となる。
(注意:Gが群ならばこれら2条件は満たされるので、実際はこれら2条件はGが群となるための必要充分条件です。)
証明
ステップ1: ee=e となる元 e が存在
Gの元 g をどれか一つ取る。条件(1)の全射性より、ge=Lg(e)=g となる元 e が存在する。このとき Lg(ee)=g(ee)=(ge)e=ge=Lg(e) となるので、条件(1)の単射性より ee=e (ステップ1終わり)
ステップ2:ステップ1の元 e は単位元
Gの任意の元 g について、h=ge と置くと、 Re(h)=he=(ge)e=g(ee)=ge=Re(g) (4番目の等号でステップ1の性質 ee=e を使用)となるので、条件(2)の単射性より ge=h=g となる。積の順序を入れ替えた同様の議論で eg=g も示せるので、 ge=g=eg (ステップ2終わり)
ステップ3:逆元の存在
Gの任意の元 g について、条件(1)(2)の全射性より fg=e=gh となる元 f と h が存在する。このとき h=eh=(fg)h=f(gh)=fe=f (最初と最後の等号のためにステップ2の結果を使用)となるので、 fg=e=gf つまり f が g の逆元となる。(証明終わり)